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左翼才子 发表于 2010-2-26 21:04:28 | 显示全部楼层
《(<)在世界中心呼唤爱(ざいせかいちゅうしんこ唤爱)》(>)第(だい)1(1)章第(しょうだい)1(1)节原文欣赏(节げんぶんごん赏)2009(2009)年(ねん)02(02)月(がつ)28(28)日(にち) 星期六(ほしきろっ) 下午(したうま) 07(07):40(40)世界(せかい)の中心(ちゅうしん)で、愛(あい)をさけぶ

原著(yuánzhù):片山恭一(piànshāngōngyī)
翻译(fānyì):林少华
整理:Roume Zalend

第一章



 朝(あさ)、目(め)が覚(さ)めると泣(な)いていた。いつものことだ。悲(かな)しいのかどうかさえ、もうわからない。涙(なみだ)と一緒(いっしょ)に、感情(かんじょう)はどこかへ流(なが)れていった。しばらく布団(ふとん)のなかでぼんやりしていると、母(はは)がやって来(き)て、「そろそろ起(お)きなさい」と言(い)った。
  早上醒来,发觉自己在哭。总是这样。甚至是否悲伤都已分不出了,感情同眼泪一起流去了哪里。正在被窝里愣愣发呆,母亲进来催道:“该起来了!”

 雪は降っていなかったが、道路は凍結して白っぽくなっていた。半分くらいの車はチェーンを付けて走っている。父が運\転する車の助手席に、アキの父親が坐った。アキの母親とぼくは後部座席に乗\り込んだ。車が動き出した。運\転席と助手席の男たちは、雪の話ばかりしている。搭乗\時間までに空港につけるだろうか。飛行機は予定通りに飛ぶだろうか。後部座席の二人はほとんど喋らない。ぼくは車の窓から、通りすぎていく景色をぼんやり眺めていた。道の両側に広がる田畑は、見渡すかぎりの雪野原だった。雲のあいだから射す太陽の光が、遠い山の稜線をきらめかせた。アキの母親は遺骨の入った小さな壺を膝に抱いている。
  雪虽然没下,但路面结了冰,白亮亮的。约有一半车轮缠了铁链。父亲开车,助手席上坐着亚纪的父亲。亚纪的母亲和我坐在后面。车开动了。驾驶席和助手席上的两人不停地谈雪。登机前能赶到机场吗?飞机能按时起飞吗?后面的两人几乎一声不响。我透过车窗,怅怅打量外面掠过的景致。路两旁舒展的田野成了一望无边的雪原。阳光从云隙射下,把远山镀了一层光边。亚纪的母亲膝上抱着一个装有骨灰的小瓷罐。

 峠に差しかかると雪が深くなった。父親たちはドライブインに車を停めて、タイヤにチェーンを巻きはじめた。そのあいだに近くを歩いてみることにした。駐車場の向こうは雑木林だった。ふみ荒らされていない雪が下草を覆い、木々の梢に降り積もった雪が、ときどき乾いた音をたてて地面に落ちた。後ろを振り返るとガードレールの彼方に冬の海が見えた。穏やかに凪いだ、真っ青な海だった。何を見ても、懐かしい思い出に吸い寄せられそうになる。ぼくは心に固く蓋をして、海に背を向ける。
  车到山顶时,雪深了起来。两个父亲把车停进路旁餐馆,开始往车轮上缠铁链。这时间里我在附近走动。停车场对面是杂木林。未被践踏的雪掩住了下面的荒草,树梢上的积雪不时发出干涩的响声落到地面。护栏的前方闪出冬天的大海,波平如镜,一片湛蓝。所见之物,无不像被深沉的回忆吸附过去。我把心紧紧封闭起来,背对大海。

 林の雪は深かった。祈れた枝や、固い切り株のようなものがあって、思ったよりも歩きにくい。突然、林のなかから、一羽の野鳥が鋭い声を発して飛び立った。立ち止まり、物音に耳を澄ませた。静かだった。まるでこの世界から、誰もいなくなってしまったみたいだった。目を閉じると、近くの国道を走る車のチェーンが、鈴の音のように聞こえた。ここはどこなのか、自分が誰なのか、わからなくなりかけた。そのとき駐車場の方から、父がぼくを呼ぶ声が聞こえてきた。
  树林里的雪很深,又有折断的树枝和坚硬的树桩,比预想的还难走。忽然,一只野鸟从林间尖叫着腾空而起。我止住脚步,倾听四周动静。万籁俱寂,就好像最后一个人都已从这世界上消失。闭上眼睛,附近国道上奔驰的带链车轮声听起来仿佛铃声。这里是哪里?自己是谁?我开始糊涂起来。这时,停车场那边传来父亲招呼我的声音。

 峠を越えたあとは順調だった。車は予定通り空港に到着し、ぼくたちは搭乗\手続きを終えてゲートに進んだ。
  翻过山顶,往下就顺畅了。车按预定时间开到机场,我们办完登机手续,走去大门。

 「よろしくお願いします」父がアキの両親に言った。
  “拜托了!”父亲对亚纪父母说。

 「こちらこそ」アキの父親はにこやかに答えた。「朔太郎くんに一緒に来てもらって、アキも喜んでいると思います」
  “哪里。”亚纪的父亲微笑着应道,“朔太郎一起来,亚纪也肯定高兴。”

 ぼくはアキの母親が抱えている小さな壺に目をやった。美しい錦\織の袋にくるまれた壺、そのなかに本当にアキはいるのだろか。
  我把视线落在亚纪母亲怀抱的小罐上面——一个包在漂亮锦缎中的瓷罐,亚纪果真在那里面吗?

 飛行機が飛び立つと、ほどなく眠りに落ちた。そして夢を見た。まだ元気だったころのアキの夢だ。夢のなかで彼女は笑っている。あのいつもの、ちょっと困ったような笑顔で。「朔ちゃん」と、ぼくのことを呼ぶ。その声も、はっきり耳に残っている。夢が現実で、この現実が夢ならいいと思う。でも、そんなことはありえない。だから目が覚めたとき、ぼくはいつも泣いている。悲しいからではない。楽しい夢から悲しい現実に戻ってくるときに、跨ぎ越さなくてはならない亀裂があり、涙を流さずに、そこを超えることができない。何度やってもだめなのだ。
  飞机起飞不久我就睡了过去。我做了个梦。梦见还健康时的亚纪。她在梦中笑,仍是以往那张显得有点困惑的笑脸。“朔君!”她叫我。语声也清晰留在我耳底。但愿梦是现实、现实是梦。但那是不可能的。所以醒来时我仍在哭泣。不是因为悲伤。从欢欣的梦中返回悲伤的现实,其间有一道必须跨越的裂口,而不流泪是跨越不过去的。尝试多少次也无济于事。

 飛び立ったところは雪景色だったのに、降り立ったところは真夏の太陽が照りつける観光都市だった。ケアンズ。太平洋に面した美しい街。椰子の木が繁るプロムナード。湾に面して建つ高級ホテルのまわりには、むせかえるような熱帯植物の緑が溢れ、桟橋には大小のクルーズ船が係留されている。ホテルへ向かうタクシーは、海岸沿いの芝生の横を走った。たくさんの人たちが、夕暮れの散歩を楽しんでいた。
  起飞的地方冰天雪地,而降落的地方却是娇阳似火的观光城市。凯恩斯——面临太平洋的美丽都市。人行道上椰子树枝叶婆娑。面对海湾建造的高级宾馆四周,绿得呛人的热带植物铺天盖地。栈桥系着大大小小的观光船。开往宾馆的出租车沿着海滨草坪的一侧快速行进。许多人在暮色中悠然漫步。

 「ハワイのようね」アキの母親が言った。
  “好像夏威夷啊!”亚纪的母亲说。

 ぼくには呪われた街に思える。何もかも、四ヵ月前と同じだ。四ヵ月のあいだに季節は進み、オーストラリアでは春のはじめが夏の盛りになった。それだけだ。ただ、それだけのことなのだけれど。
  在我看来仿佛是应该诅咒的城市。所有一切都和四个月前相同。四个月时间里唯独季节推进,澳大利亚由初夏进入盛夏,如此而已。仅仅如此而已……

 ホテルに一泊して、翌日の午前の便で出発することになっていた。時差はほとんどないので、日本を出たときの時間が、そのまま流れている。夕食のあと、自分の部屋のベッドに寝ころび、天井を見上げてぼんやりしていた。そしてアキはいないのだ、と自分に言い聞かせた。
  将在宾馆住一宿,翌日乘上午航班出发。几乎没有时差,离开日本时的时间照样在此流淌。吃罢晚饭,我躺在自己房间床上,望着天花板发呆。并且自言自语:亚纪不在了!

 四ヵ月前に来たときも、アキはいなかった。彼女を日本に残して、ぼくたちは高校の修学旅行でここにやってきた。オーストラリアに近い日本の街から、日本に近いオーストラリアの街へ。このルートだと、飛行機は燃料補給のために、途中でどこかの空港に立ち寄る必要がない。奇妙な理由によって、人生のなかに入り込んできた街。美しい街だと思った。何を見ても物珍しく、奇妙で新鮮だった。それはぼくが見るものを、アキが一緒に見ていたからだ。でも、いまはどんなものを見ても、何も感じない。ぼくはいったいここで、何を見ればいいのだろう。
  四个月前来时也没有亚纪。我们来此做高中修学旅行,而把她留在了日本。从离澳大利亚最近的日本城市来到离日本最近的澳大利亚城市。这条路线,飞机不必为加油中途停靠哪里的机场。一座因为奇妙的理由闯入人生的城市。城市是很漂亮。看见什么都觉得新鲜、新奇。那是因为我所看的东西亚纪曾一起看过。但现在无论看什么都无动于衷。我到底该在这里看什么呢?

 そういうことだ、アキがいなくなるということは。彼女を失うということは。ぼくには、見るものが何もなくなってしまった。オーストラリアでもアラスカでも、地中海でも南氷洋でも。世界のどこへ行こうと同じことだ。どんな雄大な景色にも心は動かないし、どんな美しい光景も、ぼくを楽しませない。見ること、知ること、感じること......生きることに動機を与えてくれる人がいなくなってしまった。彼女はもうぼくと一緒に生きてはくれないから。
  是的,这就是亚纪不在的结果,失去她的结果。我没有任何可看的了。澳大利亚也好阿拉斯加也好地中海也好,去世界任何地方都一回事。再壮观的景象也打动不了我的心,再优美的景色也无从让我欢愉。所见、所知、所感……给我以生存动机的人已经不在了。她再也不会同我一起活着。

 ほんの四ヵ月、季節が一つめぐるあいだの出来事だった。呆気なく、一人の女の子がこの世界から消えてしまったのは。六十億の人類から見れば、きっと些細なことだ。でも六十億の人類という場所に、ぼくはいない。ぼくがいるのは、たった一つの死が、あらゆる感情を洗い流してしまうような場所だ。そういう場所に、ぼくはいる。何も見ない、何も聞かない、何も感じないぼくがいる。でも本当に、そこにいるのだろうか。いないとしたら、どこにいるのだらう。
  仅仅四个月、仅仅一个季节交替之间发生的事。一个女孩那般轻易地从这个世界上消失了!从六十亿人类看来,无疑是微不足道的小事。然而我不置身于六十亿人类这一场所。我不在那里。我所在的只是一人之死冲尽所有感情的场所。那场所里有我。一无所见,一无所闻,一无所感。可是我果真在那里吗?不在那里,我又在哪里呢?

《在世界中心呼唤爱》第1章第1节原文欣赏2009年02月28日 星期六 下午 07:40世界の中心で、愛をさけぶ

原著:片山恭一
翻译:林少华
整理:Roume Zalend

第一章



 朝、目が覚めると泣いていた。いつものことだ。悲しいのかどうかさえ、もうわからない。涙と一緒に、感情はどこかへ流れていった。しばらく布団のなかでぼんやりしていると、母がやって来て、「そろそろ起きなさい」と言った。
  早上醒来,发觉自己在哭。总是这样。甚至是否悲伤都已分不出了,感情同眼泪一起流去了哪里。正在被窝里愣愣发呆,母亲进来催道:“该起来了!”

 雪は降っていなかったが、道路は凍結して白っぽくなっていた。半分くらいの車はチェーンを付けて走っている。父が運\転する車の助手席に、アキの父親が坐った。アキの母親とぼくは後部座席に乗\り込んだ。車が動き出した。運\転席と助手席の男たちは、雪の話ばかりしている。搭乗\時間までに空港につけるだろうか。飛行機は予定通りに飛ぶだろうか。後部座席の二人はほとんど喋らない。ぼくは車の窓から、通りすぎていく景色をぼんやり眺めていた。道の両側に広がる田畑は、見渡すかぎりの雪野原だった。雲のあいだから射す太陽の光が、遠い山の稜線をきらめかせた。アキの母親は遺骨の入った小さな壺を膝に抱いている。
  雪虽然没下,但路面结了冰,白亮亮的。约有一半车轮缠了铁链。父亲开车,助手席上坐着亚纪的父亲。亚纪的母亲和我坐在后面。车开动了。驾驶席和助手席上的两人不停地谈雪。登机前能赶到机场吗?飞机能按时起飞吗?后面的两人几乎一声不响。我透过车窗,怅怅打量外面掠过的景致。路两旁舒展的田野成了一望无边的雪原。阳光从云隙射下,把远山镀了一层光边。亚纪的母亲膝上抱着一个装有骨灰的小瓷罐。

 峠に差しかかると雪が深くなった。父親たちはドライブインに車を停めて、タイヤにチェーンを巻きはじめた。そのあいだに近くを歩いてみることにした。駐車場の向こうは雑木林だった。ふみ荒らされていない雪が下草を覆い、木々の梢に降り積もった雪が、ときどき乾いた音をたてて地面に落ちた。後ろを振り返るとガードレールの彼方に冬の海が見えた。穏やかに凪いだ、真っ青な海だった。何を見ても、懐かしい思い出に吸い寄せられそうになる。ぼくは心に固く蓋をして、海に背を向ける。
  车到山顶时,雪深了起来。两个父亲把车停进路旁餐馆,开始往车轮上缠铁链。这时间里我在附近走动。停车场对面是杂木林。未被践踏的雪掩住了下面的荒草,树梢上的积雪不时发出干涩的响声落到地面。护栏的前方闪出冬天的大海,波平如镜,一片湛蓝。所见之物,无不像被深沉的回忆吸附过去。我把心紧紧封闭起来,背对大海。

 林の雪は深かった。祈れた枝や、固い切り株のようなものがあって、思ったよりも歩きにくい。突然、林のなかから、一羽の野鳥が鋭い声を発して飛び立った。立ち止まり、物音に耳を澄ませた。静かだった。まるでこの世界から、誰もいなくなってしまったみたいだった。目を閉じると、近くの国道を走る車のチェーンが、鈴の音のように聞こえた。ここはどこなのか、自分が誰なのか、わからなくなりかけた。そのとき駐車場の方から、父がぼくを呼ぶ声が聞こえてきた。
  树林里的雪很深,又有折断的树枝和坚硬的树桩,比预想的还难走。忽然,一只野鸟从林间尖叫着腾空而起。我止住脚步,倾听四周动静。万籁俱寂,就好像最后一个人都已从这世界上消失。闭上眼睛,附近国道上奔驰的带链车轮声听起来仿佛铃声。这里是哪里?自己是谁?我开始糊涂起来。这时,停车场那边传来父亲招呼我的声音。

 峠を越えたあとは順調だった。車は予定通り空港に到着し、ぼくたちは搭乗\手続きを終えてゲートに進んだ。
  翻过山顶,往下就顺畅了。车按预定时间开到机场,我们办完登机手续,走去大门。

 「よろしくお願いします」父がアキの両親に言った。
  “拜托了!”父亲对亚纪父母说。

 「こちらこそ」アキの父親はにこやかに答えた。「朔太郎くんに一緒に来てもらって、アキも喜んでいると思います」
  “哪里。”亚纪的父亲微笑着应道,“朔太郎一起来,亚纪也肯定高兴。”

 ぼくはアキの母親が抱えている小さな壺に目をやった。美しい錦\織の袋にくるまれた壺、そのなかに本当にアキはいるのだろか。
  我把视线落在亚纪母亲怀抱的小罐上面——一个包在漂亮锦缎中的瓷罐,亚纪果真在那里面吗?

 飛行機が飛び立つと、ほどなく眠りに落ちた。そして夢を見た。まだ元気だったころのアキの夢だ。夢のなかで彼女は笑っている。あのいつもの、ちょっと困ったような笑顔で。「朔ちゃん」と、ぼくのことを呼ぶ。その声も、はっきり耳に残っている。夢が現実で、この現実が夢ならいいと思う。でも、そんなことはありえない。だから目が覚めたとき、ぼくはいつも泣いている。悲しいからではない。楽しい夢から悲しい現実に戻ってくるときに、跨ぎ越さなくてはならない亀裂があり、涙を流さずに、そこを超えることができない。何度やってもだめなのだ。
  飞机起飞不久我就睡了过去。我做了个梦。梦见还健康时的亚纪。她在梦中笑,仍是以往那张显得有点困惑的笑脸。“朔君!”她叫我。语声也清晰留在我耳底。但愿梦是现实、现实是梦。但那是不可能的。所以醒来时我仍在哭泣。不是因为悲伤。从欢欣的梦中返回悲伤的现实,其间有一道必须跨越的裂口,而不流泪是跨越不过去的。尝试多少次也无济于事。

 飛び立ったところは雪景色だったのに、降り立ったところは真夏の太陽が照りつける観光都市だった。ケアンズ。太平洋に面した美しい街。椰子の木が繁るプロムナード。湾に面して建つ高級ホテルのまわりには、むせかえるような熱帯植物の緑が溢れ、桟橋には大小のクルーズ船が係留されている。ホテルへ向かうタクシーは、海岸沿いの芝生の横を走った。たくさんの人たちが、夕暮れの散歩を楽しんでいた。
  起飞的地方冰天雪地,而降落的地方却是娇阳似火的观光城市。凯恩斯——面临太平洋的美丽都市。人行道上椰子树枝叶婆娑。面对海湾建造的高级宾馆四周,绿得呛人的热带植物铺天盖地。栈桥系着大大小小的观光船。开往宾馆的出租车沿着海滨草坪的一侧快速行进。许多人在暮色中悠然漫步。

 「ハワイのようね」アキの母親が言った。
  “好像夏威夷啊!”亚纪的母亲说。

 ぼくには呪われた街に思える。何もかも、四ヵ月前と同じだ。四ヵ月のあいだに季節は進み、オーストラリアでは春のはじめが夏の盛りになった。それだけだ。ただ、それだけのことなのだけれど。
  在我看来仿佛是应该诅咒的城市。所有一切都和四个月前相同。四个月时间里唯独季节推进,澳大利亚由初夏进入盛夏,如此而已。仅仅如此而已……

 ホテルに一泊して、翌日の午前の便で出発することになっていた。時差はほとんどないので、日本を出たときの時間が、そのまま流れている。夕食のあと、自分の部屋のベッドに寝ころび、天井を見上げてぼんやりしていた。そしてアキはいないのだ、と自分に言い聞かせた。
  将在宾馆住一宿,翌日乘上午航班出发。几乎没有时差,离开日本时的时间照样在此流淌。吃罢晚饭,我躺在自己房间床上,望着天花板发呆。并且自言自语:亚纪不在了!

 四ヵ月前に来たときも、アキはいなかった。彼女を日本に残して、ぼくたちは高校の修学旅行でここにやってきた。オーストラリアに近い日本の街から、日本に近いオーストラリアの街へ。このルートだと、飛行機は燃料補給のために、途中でどこかの空港に立ち寄る必要がない。奇妙な理由によって、人生のなかに入り込んできた街。美しい街だと思った。何を見ても物珍しく、奇妙で新鮮だった。それはぼくが見るものを、アキが一緒に見ていたからだ。でも、いまはどんなものを見ても、何も感じない。ぼくはいったいここで、何を見ればいいのだろう。
  四个月前来时也没有亚纪。我们来此做高中修学旅行,而把她留在了日本。从离澳大利亚最近的日本城市来到离日本最近的澳大利亚城市。这条路线,飞机不必为加油中途停靠哪里的机场。一座因为奇妙的理由闯入人生的城市。城市是很漂亮。看见什么都觉得新鲜、新奇。那是因为我所看的东西亚纪曾一起看过。但现在无论看什么都无动于衷。我到底该在这里看什么呢?

 そういうことだ、アキがいなくなるということは。彼女を失うということは。ぼくには、見るものが何もなくなってしまった。オーストラリアでもアラスカでも、地中海でも南氷洋でも。世界のどこへ行こうと同じことだ。どんな雄大な景色にも心は動かないし、どんな美しい光景も、ぼくを楽しませない。見ること、知ること、感じること......生きることに動機を与えてくれる人がいなくなってしまった。彼女はもうぼくと一緒に生きてはくれないから。
  是的,这就是亚纪不在的结果,失去她的结果。我没有任何可看的了。澳大利亚也好阿拉斯加也好地中海也好,去世界任何地方都一回事。再壮观的景象也打动不了我的心,再优美的景色也无从让我欢愉。所见、所知、所感……给我以生存动机的人已经不在了。她再也不会同我一起活着。

 ほんの四ヵ月、季節が一つめぐるあいだの出来事だった。呆気なく、一人の女の子がこの世界から消えてしまったのは。六十億の人類から見れば、きっと些細なことだ。でも六十億の人類という場所に、ぼくはいない。ぼくがいるのは、たった一つの死が、あらゆる感情を洗い流してしまうような場所だ。そういう場所に、ぼくはいる。何も見ない、何も聞かない、何も感じないぼくがいる。でも本当に、そこにいるのだろうか。いないとしたら、どこにいるのだらう。
  仅仅四个月、仅仅一个季节交替之间发生的事。一个女孩那般轻易地从这个世界上消失了!从六十亿人类看来,无疑是微不足道的小事。然而我不置身于六十亿人类这一场所。我不在那里。我所在的只是一人之死冲尽所有感情的场所。那场所里有我。一无所见,一无所闻,一无所感。可是我果真在那里吗?不在那里,我又在哪里呢?

第一章



 アキとは中学二年生のときに、はじめて同じクラスになった。それまではぼくは彼女の顔も名前も知らなかった。気まぐれな偶然から、ぼくたちは九つもあるなかの同じクラスに編入され、担任から男女の学級委員に任命された。学級委員としての最初の仕事は、新学期になってすぐに足を骨折した大木というクラスメートを、入院している病院にクラスの代表として見舞うことだった。途中、担任とクラスの全員から集めたお金で、クッキーと花を買った。
  上初二的时候我才和亚纪同班。那以前我一不晓得她的名字二不知道她的长相。我们被编入九个平行班中的一个班,由班主任老师任命为男年级委员和女年级委员。当年级委员的第一件事就是作为班级代表去看望一个叫大木的同学,他开学不久腿就骨折了。路上用班主任老师和班上全体同学凑的钱买了蛋糕和鲜花。

 大木は足に大袈裟なギプスをはめられて、ベッドの上にひっくり返っていた。始業式の翌日に入院してしまったこの級友のことを、ぼくはほとんど知らなかった。それで病人との会話は、一年生のときも彼と同じクラスだったアキに任せて、四階にある病室の窓から街を眺めていた。バス通りに沿って花屋や果物屋や菓子屋などが並び、こじんまりした商店街を形作っている。それらの町並みの向こうに城山が見えた。新緑の木々のあいだから、白い天守閣がわずかに顔を覗かせている。
  大木腿上很夸张地缠着石膏绷带,倒歪在床上。我几乎不认得开学第二天就住院的这个同学,于是和病人的交谈全部由一年级时也和他同班的亚纪承担,我从四楼病房的窗口往街上观望。车道两旁整齐排列着花店、水果店和糕点店等店铺,形成一条不大但很整洁的商业街。街的前方可以看见城山。白色的天守阁在树梢新绿之间若隐若现。

 「松本はさあ、下の名前、朔太郎っていうんだろう」それまでアキと話していた大木が突然話しかけてきた。
  “松本,下面的名字叫朔太郎吧?”一直跟亚纪说话的大木突然向我搭话。

 「そうだけど」ぼくは窓辺から振り返った。
  “是的……”我从窗边回过头去。

 「こういうのってたまんないよな」と彼は言った。
  “这怕不好办吧?”他说。

 「何がたまんないんだよ」
  “有什么不好办的?”

 「だって朔太郎って、萩原朔太郎の朔太郎だろ」
  “还用问,朔太郎不是荻原朔太郎的朔太郎①吗?”

 ぼくは答えなかった。
  我没回答。

 「おれの下の名前、知ってる?」
  “我姓下的名字可知道?”

 「龍之介だろう」
  “龙之介对吧?”

 「そう。芥川龍之介」
  “对对,芥川龙之介②。”

 ようやく大木の言わんとするところがわかった。
  我终于明白了大木的意思。

 「親が文学かぶれだったんだね、お互いに」彼は満足そうに頷いた。
  “父亲是文学中毒分子啊,双双。”他满意地点了下头。

 「うちの場合はおじいちゃんだけどね」とぼくは言った。
  “我的倒是爷爷……”我说。

 「おまえのじいちゃんがつけたのか」
  “你名字是爷爷取的?”

 「ああ、そうだよ」
  “嗯,正是。”

 「迷惑な話だよな」
  “无事生非啊!”

 「でも龍之介でまだよかったじゃないか」
  “可龙之介不还蛮好的吗?”

 「どうして」
  “好什么?”

 「金之助とかだったらどうするんだよ」
  “若是金之助如何是好?”

 「なんだ、それは」
  “什么呀,那?”

 「夏目漱石の本名だよ」
  “夏目漱石的原名嘛!”

 「へえ、知らなかった」
  “哦?不知道。”

 「もしおまえの両親の愛読書が『こ、ろ』とかだったら、いまごろおまえは大木金之助だぞ」
  “假如你父母爱看《心》③,如今你可就成了大木金之助喽!”

 「まさか」彼はおかしそうに笑いながら、「いくらなんでも息子に金之助なんて名前はつけないよ」
  “何至于。”他好笑似的笑道,“无论如何也不至于给儿子取什么金之助为名嘛!”

 「たとえばの話だよ」とぼくは言った。「仮におまえが大木金之助だったとするよな。そしたらおまえは学校中の笑いものだ」
  “比如说嘛。”我说,“假如你是大木金之助会怎么样——肯定成为全校的笑料。”

 大木はちょうっと浮かない顔になった。僕はつづけた。
  大木脸上有点儿不悦。我继续道:

 「おまえは自分にこんな名前をつけた親を恨んで家を飛び出すだろう。そしてプロレスラーになるんだ」
  “想必你要因为怨恨父母取这么个名字离家出走,成为职业摔跤手。”

 「なんでプロレスラーなんだよ」
  “何苦成为职业摔跤手?”

 「大木金之助なんて、プロレスラーにでもなるしかなさそうな名前じゃないか」
  “大木金之助这样的名字,不是只能当职业摔跤手的吗?

 「そうかな」
  “也许吧。”

 アキは持ってきた花を花瓶に活けていた。ぼくと大木はクッキーの箱をあけて食べながら、しばらく文学かぶれの親の話などをつづけた。帰るときに、大木は「また来てくれよな」と言った。
  亚纪把拿来的花插进花瓶。我和大木打开糕点,边吃边继续谈论文学中毒分子双亲。临回去时,大木叫我们再来。

 「一日寝とくの退屈だからさ」
  “一躺一整天真够无聊的了!”

 「そのうちクラスの連中が交替で勉強を教えにくるよ」
  “过几天班里的人会轮流教你功课的。”

 「そういうことはしてくれなくていいんだけど」
  “最好别那样……”

 「佐々木さんたちも協力するって言ってたわよ」アキはクラスでも美少女の誉れ高い女の子の名前をあげた。
  “佐佐木她们也说要帮来着。”亚纪道出班里一个以美少女著称的女孩名字。

 「いいな、大木は」ぼくがからかうと、
  “满意吧,大木?”我取笑他。

 「おおきなお世話だ」と面白くない洒落を言って、一人で笑った。
  “瞎操心!”他说了句不甚风趣的俏皮话,独自笑了。

 病院の帰りに、ぼくはふと思いついて、城山に登ってみないかとアキを誘った。部活に顔を出すには遅すぎるし、真っ直ぐ家に帰っても夕食までにはまだ時間がある。彼女は「いいわよ」と言って、気軽についてきた。城山の登り口は北側と南側に二箇所ある。ぼくたちが登りはじめたのは南側だった。北側を正門とすれば、こちらは裏門にあたるため、道は細く険しく、登山者も少ない。途中に公園があり、そこで二つの登山道が合流するようになっている。ぼくたちは話らしい話もせずに、ゆっくり山道を登っていった。
  医院回来路上,我忽生一念,问亚纪一起爬城山如何。参加课外体育活动太晚了,而径直回家至吃晚饭还有些时间。“好啊!”她爽快地跟了上来。城山登山口有南北侧两个。我们登的是南侧。若以北侧为正门,这边则相当于后门。路又险又窄,登山者也少。途中有个公园,两条登山路在那里合在一起。我们也没怎么说话,只管沿山路慢慢往上爬。

 「松本くんて、ロックとか聴くんでしょう」横を歩いているアキがたずねた。
  “松本君,摇滚什么的听吧?”走在身旁的亚纪问。

 「うん」ぼくはちらりと振り向いた。「どうして?」
  “嗯。”我一闪侧了下头,“怎么?”

 「一年生のときから、友だちとよくCDの貸し借りしているのを見かけてたから」
  “一年级时候看到你常和同学借CD。”

 「広瀬は聴かないのか」
  “你不听的?”

 「わたしはダメ。頭のなかがぐちゃぐちゃになっちゃう」
  “我不成。脑袋里一锅粥。”

 「ロックを聴くと?」
  “一听摇滚就?”

 「そう。給食のカレービーンズみたいになっちゃうの」
  “嗯。就成了午间校餐里的咖喱豆。”

 「ふーん」
  “嗬。”

 「松本くん、部活は剣道よね」
  “体育活动你参加的是剑道部吧?”

 「ああ」
  “啊。”

 「今日は練習行かなくていいの?」
  “今天不去练习也可以的?”

 「顧問の先生に休部届けを出してきた」
  “跟顾问老师请假了。”

 アキはしばらく考えて、「でも変よね」と言った。
  亚纪想了一会。“奇怪呀!”她说。

 「部活で剣道やってる人が、家ではロックを聴いてるなんて。なんかイメージがぜんぜん違うもん」
  “体育活动搞剑道的人,在家里却听什么摇滚——味道完全不同的呀!”

 「剣道で相手の面やなんかを打つとスカッとするだろ。だからロックを聴くのと同じだよ」
  “剑道不是要‘咔嚓’一声击中对方面部的么,和听摇滚是一回事。”

 「いつもはスカッとしてないの?」
  “平时不怎么‘咔嚓’?”

 「広瀬はスカッとしてるのかよ」
  “你‘咔嚓’不成?”

 「スカッとするっていうのが、わたしにはよくわからないけど」
  “‘咔嚓’是怎么回事,我还真不大明白。”

 ぼくにもよくわからないけど。
  我也不大明白。

 そのときは二人とも、中学生の男女として節度ある距離を保ちながら歩いていた。にもかかわらず彼女の髪からは、シャンプーというかリンスというか、ほんのり甘い匂いが漂ってきた。鼻のもげるような防具の匂いとは、えらい違いだ。こういう匂いを年がら年中身にまとって生きていると、ロックを聴いたり竹刀で人を叩いたりという気分にはならないのかもしれない。
  作为男女中学生,那时两人走路都保持适当距离。尽管如此,从她头发上还是有洗发香波或护发液那微微的香甜味儿飘来,和直冲鼻孔的剑道护具味儿截然不同。一年到头带有这种气味儿生活,或许不会产生听摇滚或用竹剑击人那样的心情。

 登っていく石段は角が丸くなり、ところどころ緑色の苔が生えていた。石の埋まっている地面は赤土で、一年中湿っているように見える。突然、アキが足を止めた。
  脚下石阶的棱角变得圆了,点点处处生出绿色的藓苔。掩住石砾的地面是一层红土,看上去常年湿漉漉的。亚纪突然站住:

 「アジサイだ」
  “绣球花!”

 見ると山道と右手の崖のあいだに、一群のアジサイが葉を繁らせていた。すでに十円玉くらいの花の赤ちゃんをたくさんつけている。
  一看,山路和右面石崖之间有一丛枝叶繁茂的绣球花,已经长出许多十圆硬币大小的花蕾。

 「わたし、アジサイの花って好き」彼女はうっとりした表情で言った。「花が咲いたら一緒に見にこない?」
  “我么,喜欢绣球花。”她一副痴迷的样子,“开花时不一起来看?”

 「いいけど」ぼくはちょっとあせって、「とにかく上まで登ろうぜ」と言った。
  “好的。”我有点焦急,“反正先爬上去吧!”


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注:
①日本著名诗人,1886~1942。
②日本著名小说家,1892~1927。
③ 夏目漱石(1867~1916)的代表作。

世界の中心で、愛をさけぶ

原著:片山恭一
翻译:林少华
整理:Roume Zalend

第一章



 ぼくの家は市立図書館の敷地内にある。本館に隣接した二階建ての白い洋館は、ほとんど鹿鳴館か大正デモクラシーかという代物だ。真面目な話、この建物は市の文化財に指定されていて、居住者は勝手に改修工事などをしてはならないことになっている。文化財と言えばあり難そうだが、住んでいる方としては、あり難くもなんともない。現に祖父などは、年寄りには住みにくい家だとか言って、一人でさっさと中古マンションに移ってしまった。年寄りに住みにくい家は、老若男女を問わず住みにくいにきまっている。こういう酔狂は父の宿病みたいなもので、ぼくの見るところ、母もかなりこの病気に侵されていた。子供にとってはいい迷惑だ。
  我家位于市立图书馆院内。与主馆相邻的双层白色洋楼几乎就是鹿鸣馆①或大正自由民主风潮②的化身。说正经话,此建筑已被市里定为文物,居住者不得擅自维修。定为文物本身自是值得庆幸,但作为住的人根本无幸可言。实际上祖父也说不适于老年人住,赶紧一个人搬去一座半新不旧的公寓。不适于老年人住的房子,定然任何人住都不舒服。这种故意逞强似乎是父亲的一个顽症,依我看,母亲给此病害得不浅。而对孩子却是大大的麻烦。

 どういう事情で、一家がこの家に住むようになったのか知らない。父の酔狂を別にすれば、きっと母が図書館に勤めていることと関係があるのだろう。それとも、昔なんとか議員をしていた祖父の手づるによるものなのか。どっちにしても、この家にまつわる忌まわしい過去など知りたくもないので、わざわざたずねてみたことはない。家と図書館のあいだは、最短で三メートルほどしかない。そのため二階にあるぼくの部屋からは、窓際机に坐っている人の本が一緒に読める、というのは嘘だけど。
  至于一家子因了什么缘故住在这座房子的我不知道。除了父亲的故意逞强,同母亲在图书馆工作肯定有关系。抑或由于过去好歹当过议员的祖父的门路也有可能。不管怎样,反正我不想知道有关这座房子的令人不快的过去,从未故意打听过。家与图书馆之间,最短不过十米。因此,可以从二楼我的房间里和坐在图书馆窗边桌旁的人看同一本书——这倒是说谎了。

 こう見えてもぼくは孝行息子なので、中学に入ったころから、ときどき部活の暇なときに母の手伝いをすることがあった。たとえば土曜日の午後や日祭日など、利用者の多い日は、貸出カウンターで本のバーコードをコンピュータに入力したり、返却された本をワゴンに積んでもとの本棚に戻しにいったり、『銀河鉄道の夜』のジョバンニなみの勤勉さなのである。もちろん母子家庭ではないし、ボランティアをやっているわけでもないから、日当はもらう。もらったお金は、ほとんどがCD代になった。
  别看我这样子,可还是个孝顺儿子,从上初中开始,就趁体育活动的空闲帮母亲做事。例如周六下午和节假日读者多的日子在借阅服务台把图书条形码输入电脑,或把还回的书堆在小车上放回原来的书架,勤快得不次于《银河铁道之夜》③里的焦班尼。当然,因为一来不是母子经营的图书馆,二来不是义务工,所以工钱还是领的。领的工钱几乎都用来买CD了。

 ぼくとアキとは、その後も男女の学級委員として、過不足のない関係をつづけていた。一緒にいる機会は多かったが、とくに異性として意識したことはなかった。むしろ近すぎる距離のために、アキの魅力に気づかなかったのかもしれない。そこそこに可愛くて性格が良く、勉強もできる彼女のファンは、クラスの男子のなかにもたくさんいた。そしてぼくはいつのまにか、彼らの妬みと反感を買うことになっていた。たとえば体育の時間にバスケットやサッカーをすると、かならず意図的にぶつかってきたり、足を蹴飛ばしたりするゃつがいる。あからさまな暴力ではないが、相手の悪意はちゃんと伝わってくる。最初のうちは理由がわからなかった。ただぼくを嫌っているやつがいる。なぜか自分は嫌われていると思うと、それなりに傷ついた。
  我和亚纪那以后也作为男女学级委员继续保持恰到好处的关系。在一起的机会固然很多,但不曾特别意识到对方是异性。莫如说可能因为距离太近而觉察不出亚纪的魅力。她相当可爱,性格随和,学习也好,班上男孩子里边也有很多她的追捧者。而我不知不觉之间招来了他们的嫉妒和反感。比如上体育课时打篮球踢足球,必定有人故意冲撞或踢我的脚。虽说不是明显的暴力,但对方的恶意足以感受得到。起初我不解其故,只是以为有人讨厌我。而一想到自己无端被人讨厌,心里很受刺激。

 長いあいだの気がかりは、つまらない事件によって呆気なく氷解した。二学期の文化祭で、二年生はクラスごとに劇をしなければならない。ホームルームの時間に投票をした結果、女子の組織票がものを言って、うちにクラスは『ロミオとジュリエット』をやることになった。そしてジュリエット役は、結束した女子の推薦によってアキが、ロミオ役は、誰もやりたがらないことは学級委員がやるという不文律に従ってぼくが、それぞれ演ずることになった。
  长期不解之谜由于一件无聊小事而豁然开朗。第二学期举办文化节时,二年级必须每班演一个节目。自习时间里投票结果,女生团体票占了上风,要我们班上演《罗密欧与朱丽叶》。朱丽叶一角因女生联合投票由亚纪扮演;罗密欧一角按照谁都不愿意做的事便由学级委员做这条不成文的规定而由我扮演。

 女子主導のもと、練習は和気あいあいとした雰囲気のなかで進んだ。窓辺のシーンでジュリエットが「ロミオ、ロミオ、なぜあなたはロミオなの。お父上に背き、その名を捨ててください。それができないなら、せめて愛の誓いを……」と告白する場面は、もともと真面目なアキが真面目に演じる可笑しさがあったし、特別出演の女校長を乳母役にして、「間違いございません。生娘だったわたしの十二の歳にかけて誓います」という、原文どおりの台詞を言わせるところは、全員が爆笑だった。ジュリエットの寝室で二人が朝を迎え、「外が明るくなれば、二人の心は暗くなるのだ」とロミオが呟いて立ち去る場面には、ちゃんとキス・シーンが設けてあった。引き止めるジュリエット、後ろ髪を引かれるロミオ、二人は互いに見つめ合い、バルコニーの手摺を隔ててキスをする。
  在女生主导下,排练在融洽气氛中顺利进行。在窗边一幕有朱丽叶自我表白场面:“罗密欧、罗密欧,你为什么是罗密欧?请你背叛父亲,抛弃那个姓!如果做不到,至少请发誓相爱……”。亚纪本来就认真,演得又认真,自有好笑之处。加之特别出场的女校长扮演乳母角色,照本宣科地说道“一点不错,我以十二岁时还是处女的我本人的名誉宣誓”,结果惹得大家哄堂大笑。在朱丽叶卧室里两人迎来清晨,罗密欧离去前自言自语:“外面亮了,而两人的心暗了”——这时恰有接吻场面。加以劝阻的朱丽叶,被拽住脑后头发的罗密欧,两人定定对视,隔着阳台栏杆接吻。

 「おまえ、広瀬とあんまりいちゃいちゃすんなよな」と彼は言った。
  “你少跟广濑死皮赖脸的!”他说。

 「ちょっと勉強ができるからと思って、いい気になんな」別のやつが言った。
  “以为自己学习好一点儿就美上天了!”另一个家伙接道。

 「なんのことだよ」とぼくは言った。
  “说的什么呀?”我说。

 「うるさい」一人がいきなり腹を殴った。
  “讨厌鬼!”一人猛然朝我腹部打来。

 ただ威嚇するだけのような殴り方だったし、こちらも反射的に力をこめたので、ダメージはほとんどなかった。二人はそれで気が澄んだのか、不意に踵を返すと、肩を怒らせるようにして去っていった。ぼくはというと、屈辱よりも、むしろ長く気にかかっていた不安が取り払われたような爽快さを感じていた。アルカリ性に反応した赤いフェノールフタレイン溶液に、酸性の液体を適量加えると、中和反応が起こって水溶液が透明になる。そんなふうにして、世界が清明に澄み渡った。思いがけずもたらされた答えを、もう一度胸のなかで反芻してみた。あいつら、ぼくに嫉妬してたんだ。いつもアキと一緒にいるもんだから、目の敵にしていたんだ。
  本来就是要吓唬我,加上我也条件反射地运了气,所以几乎没受伤害。也许两人因此出了气,突然转身,气呼呼走开了。我呢,较之屈辱,莫如说感到痛快——一种长期耿耿于怀的不安消除后的痛快。往对于碱性呈红色反应的还原酚酞溶液里加入适量的酸性液体,水溶液因中和反应变得透明。如此这般,世界变得天朗气清。我把这始料未及的答案在心里再次反刍一番:原来这些家伙嫉妒我!我和亚纪形影不离,因此成了他们的眼中钉。

 当のアキには、高校生の恋人がいるという噂だった。真相を確かめたわけではないし、本人から直接聞いたわけでもない。ただクラスの女の子たちが話しているのが、それとなく耳に入ってきた。なんでも相手はバレーボールをやっている、背の高い美形だという。ふざけやがって、男は剣道だよ、剣道、とぼくは思った。
  当事人亚纪,传闻她有个高中生恋人。真相不曾确认,也没直接问过她本人。只是班上女孩子们议论而不知不觉传入我耳朵的。对方好像是打排球的,高高大大,一表人才。我心里暗开玩笑:对方是搞剑道的,剑道!

 そのころアキは、ラジオを聴きながら勉強するのが習慣になっていた。彼女が好んで聴いている番組も知っていた。何度か聴いたことがあるので、おおよその勝手はわかっている。つまりIQの低そうな男と女が葉書を出し合って、巻き舌のディスクジョッキーに読んでもらって喜ぶという趣向だ。ぼくは生まれてはじめてのリクエスト葉書というものを、アキのために書いた。どうしてそんなことをしたのかわからない。高校生とつき合っている彼女への当てつけだったのかもしれない。アキのせいで被った迷惑にたいする腹いせも、多少はあっただろう。そして何よりも、まだ自覚されていない恋心が伏線になっていたと思われる。
  那时亚纪已习惯于边听广播边学习了。她喜欢听的节目我也晓得。因听过几次,大体内容也了然于心:智商低的男女互寄明信片,由饶舌的唱片音乐节目主持人念出来,乐此不疲。我有生以来第一张明信片是为亚纪点播曲目写的。何以那么做我不清楚,大概是想挖苦她,挖苦她同高中生交往。因亚纪而吃苦头带来的报复心理恐怕多少也是有的。而更主要的伏线大约是尚未意识到的恋情。

 その日はクリスマス・イブで、番組では「聖夜の恋人たちのためのリクエスト特集」などという、身の毛のよだつような企画が組まれていた。当然、競争率はいつにも増して高いことが予想される。葉書が確実に読まれるためには、よほど彼らの心をつかむ内容でなければならない。
  那天是圣诞平安夜,节目加进一个令人毛骨悚然的计划——“平安夜恋人点播歌曲特辑”。可想而知,竞争率比平时还高。若想让明信片稳稳念出来,内容必须投其所好。

 ——ではつぎのお葉書を紹介しましょう。ラジオ・ホーム、二年四組のロミオさんから。「今日はぼくのクラスのA・Hのことを書きたいと思います。彼女は髪の長い、物静かな女の子です。顔は風の谷のナウシカを少し虚弱にしたような感じで、性格は明るく、ずっとクラス委員をしていました。十一月の文化祭では、クラスで『ロミオとジュリエット』の劇をやることになり、彼女はジュリエット、ぼくはロミオの役をすることになっていたのです。ところが練習のはじまったころから、彼女は体調を崩して学校を休みがちになりました。仕方がないので代役を立てて、ぼくは別の女の子と『ロミオとジュリエット』を演じました。その後わかったことですが、彼女は白血病でした。いまも入院して治療をつづけています。見舞いにいったクラスメートの話では、長かった髪は薬のためにすっかり抜け落ち、かつての面影がないくらい痩せてしまっているということです。このクリスマス・イブも、彼女は病院のベッドで過ごしていることでしょう。ひょっとするとラジオで番組を聴いているかもしれません。文化祭でジュリエットを演じることのできなかった彼女のために、ウェスト・サイド・ストーリーの『トゥナイト』をお願いします」
  ——那么让我介绍下一张明信片,是二年四班罗密欧同学写来的。“今天我想写一下我们班的A•H 。她是个长头发的文静女孩。长得似乎比《风之谷》的娜乌西卡④虚弱一点儿,性格开朗,一直当班委。十一月文化节班级上演《罗密欧与朱丽叶》,她演朱丽叶我演罗密欧。不料排练开始不久她就病了,时常不能来校,只好找人代替——我和另一个女孩演《罗密欧与朱丽叶》。后来才知道她得的是白血病,现在仍住院治疗。据前往看望她的同学讲,长发已因药物彻底脱落,瘦得根本看不出往日的面容了。这个平安夜想必她也正躺在医院病床上。说不定正在听广播节目。我想为未能在文化节扮演朱丽叶的她点播一首《西城故事》⑤里《今宵》,拜托!”

 「何よ、あれ」翌日、アキは学校でぼくをつかまえて言った。「昨日のリクエスト、松本くんでしょう?」
  “什么呀,那是?”第二天亚纪逮住我问,“昨天点播的,是你松本君吧?”

 「なんのこと」
  “指的什么?”

 「とぼけたってだめ。二年四組のロミオだなんて……白血病ですって?髪が抜けて、昔の面影がないくらい痩せこけてるなんて、よくそういう嘘を思いつくわね」
  “别装糊涂!什么二年四班的罗密欧啦……白血病?头发掉了,瘦得看不出原来面容啦,你可真会扯谎。”

 「最初はちゃんと褒めたじゃないか」
  “一开始不是表扬了么?”

 
左翼才子 发表于 2010-2-26 21:05:29 | 显示全部楼层
「虚弱なナウシカね」彼女は大きなため息をついた。「ねえ、松本くん。わたしのことをいろいろ書くのはかまわないの。でも世の中には、実際に病気で苦しんでいる人たちがいるわけでしょう。たとえ冗談にしても、そういう人たちをネタにして同情を買うのは、わたし嫌いよ」
  “虚弱的娜乌西卡!”她长长叹了口气,“喂,松本君,对我怎么写都无所谓。不过世上可是有人实际上受病痛折磨的吧,就算是开玩笑,我也不喜欢拿这些人博取同情。”

 ぼくはアキの分別臭い言い方に反発を感じた。しかしそれ以上に、彼女の腹立ちに好感をもった。胸のなかを涼しい風が吹き抜けていくような気がした。それはアキにたいする好ましさとともに、はじめて彼女のことを異性としている、自分自身にたいする満足感が運\んでくる風のようでもあった。
  对亚纪这种讲大道理的说法我有些反感。不过相比之下,更对她的气恼怀有好感,觉得仿佛有一阵清风从胸间吹过。那阵风吹来了对亚纪的喜欢,同时吹来了对于第一次把她看成异性的自己本身的满足感。

---
注:
①明治16年(1883年)建造的双层砖瓦结构的社交俱乐部,上流社会常用来举办舞会。
②大正时期(1912~1925)兴起的自由主义、民主主义风潮及其运动。
③日本著名童话作家、诗人宫泽贤治(1896~1933)的代表作,焦班尼是书中主人公。
④宫崎骏动画片《风之谷》中女主人公名。
⑤West Side Story,美国音乐喜剧,1957年首演,1961年拍成电影。《罗密欧与朱丽叶》的现代版。

第一章



 中学三年生では、また別のクラスになった。しかしあいかわらず二人とも学級委員をやっていたため、放課後の委員会などで、週に一度くらいは顔を合わせる機会があった。そのうえ一学期の終わりごろから、アキはちょくちょく図書館に勉強しに来るようになった。夏休みに入ってからは、ほとんど毎日のようにやって来た。ぼくも市大会が終わったあとは部活がないので、これまで以上に図書館での日当稼ぎに精を出すようになった。また高校入試に備えて、午前中は冷房の入った閲覧室で勉強するようにしていた。おのずと顔を合わせる機会は増え、そういうときは一緒に勉強したり、休憩時間にアイスクリームを食べながら話をしたりすることになる。
  初中三年时又不同班了。但由于两人仍当年级委员,在放学后的委员会上,一周有一次见面机会。而且大约从第一学期期末开始,亚纪时不时来图书馆学习。放暑假几乎每天都来。市里体育运动会结束后因为没有训练活动,我也比以前更卖力气地在图书馆打工挣钱。此外因为准备考高中,整个上午都在有冷气的阅览室看书。这样,见面机会自然多了。见面时或一同做功课,或休息时吃着冰淇淋交谈。 

 「なんか緊張感がないよな」ぼくは言った。「夏休みだというのに、ちっとも勉強に身が入らない」
  “好像没紧张感啊,”我说,“大好的暑假,却一点也学不进去。”

 「松本くんはそんなに頑張らなくても、もう安全圏なんでしょう」
  “你不那么用功不也在安全线以内么!”

 「そういう問題じゃないわけね。このあいだ『ニュートン』で読んだんだけど、西暦二千年ごろに小惑星が地球に激突して、生態系がめちゃくちゃになってしまうんだってさ」
  “不是那个问题。近来看《牛顿》,上面说公历两千年前后小行星要撞击地球,生态系统将变得一塌糊涂。”

 「ふーん」アキはアイスクリームを舌の先でなめながら間抜けな相槌を打った。
  “唔。”亚纪用舌尖舔着冰淇淋漫不经心地附和道。

 「ふーん、じゃないでしょ」ぼくは真剣な顔で、「オゾン層は年々破壊されつづけているし、熱帯雨林も減少しているし、このままいくとぼくたちがおじいさんやおばあさんになるころには、地球上に生物が棲めなくなってしまうんだよ」
  “光‘唔’怎么行,”我一本正经起来,“臭氧层年年受到破坏,热带雨林也在减少。这样下去,到我们成为老头儿老太太的时候,地球上已住不得生物了。”

 「大変ね」
  “不得了啊。”

 「大変ねって、ちっとも大変そうじゃないね」
  “口说不得了,根本没有不得了的样子嘛!”

 「ごめん」と彼女は言った。「なんだか実感がわからないのよね。松本くんは、そういうの実感ある?」
  “对不起。”她说,“总是上不来实感。你有那样的实感?”

 「そうあらたまられると」
  “不用那么道歉。”

 「ないでしょう?」
  “没有的吧?”

 「いくら実感がなくたって、いつかそういう日が来るよ」
  再没有实感,那一天迟早也要到来的。”

 「それならそれでいいじゃない」
  “到来时再说好了。”

 アキに言われると、それならそれでいいような気もした。
  给亚纪那么一说,我也觉得那样未尝不可。

 「ずっと先のことを、いまから考えてもしょうがないわ」
  “那么遥远的事情,现在想也没有用嘛。”

 「十年後のことなんだけど」
  “十年以后……”

 「わたしたち二十五歳ね」アキは遠い目をして、「でも、それまでにどうなるかわからないもの、松本くんもわたしも」
  “我们二十五岁。”亚纪做出远望的眼神,“不过,在那之前不知会变成什么样,你也好我也好。”

 ぼくはふと、城山のアジサイのことを思い出した。あれから二回は咲いたはずだけれど、まだ二人で見にいったことはなかった。毎日いろいろなことが起こるので、アジサイの花のことなどすっかり忘れてしまっていた。アキもきっとそうだったと思う。そして小惑星の激突だのオゾン層の破壊だの言っても、西暦二千年の初夏にも、やはり城山のアジサイは咲いているような気がした。だから慌てて見にいかなくても、その気になればいつでも見られるだろうと。
  我蓦然想起城山的绣球花。那以来应该开了两次了,可两人还没去看过。每天这个那个有很多事发生,绣球花之类早忘去九霄云外了。亚纪想必也是同样。而且,就算小行星撞击地球就算臭氧层受到破坏,他也觉得城山的绣球花也还是会在公历两千年的初夏开放。所以不着急去看也没什么,反正想看什么时候都可以看。

 そんなふうにして夏休みは過ぎていった。ぼくはあいかわらず地球環境の未来を憂えながら、「ゲルマン民族皆殺し」とか「一路世に出るクロムウェル」なんて覚えたり、連立方程や二次関数の問題を解いたりしていた。ときどき父と釣りに行った。新しいCDを買った。そしてアキをアイスクリームを食べながらお喋りをした。
  如此一来二去,暑假过去了。我在依然担忧未来地球环境时间里,背了什么“杀尽日尔曼民族”什么“飞黄腾达的克伦威尔①”,解了什么联立方程式什么二次函数。有时跟父亲一起钓鱼。还买了新CD。并且同亚纪吃着冰淇淋聊天。

 「朔ちゃん」と彼女からいきなり呼ばれたとき、口のなかで溶かしていたアイスクリームを、誤って呑みこんでしまった。
  “阿朔,”突然给她这么叫时,我竟至把嘴里溶化的冰淇淋一口吞了下去。

 「なんだよ、藪から棒に」
  “什么呀,风风火火的!”

 「松本くんのお母さん、松本くんのことをいつもそう呼んでるでしょう」アキはにこにこしながら言った。
  “你母亲经常这么叫你的吧?”亚纪笑眯眯地说。

 「きみはぼくのお母さんじゃないでしょう」
  “你不是我母亲对吧?”

 「でも決めたの。わたしも今日から松本くんのこと、朔ちゃんて呼ぶ」
  “可我决定了:从今往后我也把你叫阿朔。”

 「そういうことを勝手に決めないでくれる?」
  “别那么随便决定好不好?”

 「もう決めたの」
  “已经决定了。”

 そうやってアキはぼくのことをなんでもかんでも決めていくので、ついにぼくは自分が何者なのか、よくわからなくなってしまったのである。
  这么着,我的事什么都给亚纪决定下来,以致我最后弄不清自己是什么人了。

 二学期がはじまってまもないころ、彼女は昼休みに突然一冊のノートを持ってぼくの前に現れた。
  第二学期开始不久,中午休息时她突然拿一本笔记本出现在我面前。

 「はい、これ」彼女は机の上にノートを差し出して言った。
  “给,这个。”她把笔记本往桌上一放。

 「なに、これ」
  “什么呀,这?”

 「交換日記」
  “交换日记。”

 「ほう」
  “嗬。”

 「朔ちゃん、知らないんでしょう」
  “你不知道吧?”

 ぼくはあたりに目を配りながら、「学校ではそれ、やめてくれる?」
  我边扫视周围边说:“在学校里不来这个可好?”

 「朔ちゃんのご両親はされなかったのかしら」
  “你父母大概没做过吧。”

 いったい彼女はぼくの言うことを聞いているのだろうか。
  我说的话不知她到底听见没有。

 「これはね、男の子と女の子が、その日の出来事や、思ったこと感じたことをノートに書いて、交換し合うの」
  “这个嘛,是男孩和女孩把当天发生的事、想的和感觉到的写在本子上交换。”

 「そういう面倒くさいこと、おれはだめだよ。クラスに誰か適当なやついないのか」
  “那么啰嗦的事我做不来。班上没有合适的家伙?”

 「誰でもいいってもんじゃないでしょう」
  “不是谁都可以的吧?”亚纪看样子有点生气。

 アキはちょっと怒ったようだった。
  亚纪看样子有点生气。

 「しかしこういうのって、やっぱりボールペンや万年筆で書くわけだろう」
  “可这东西还是要用圆珠笔或钢笔写才成吧?”

 「あと色鉛筆とか」
  “或彩色铅笔。”

 「電話じゃだめなの?」
  “电话不行?”

 だめらしい。彼女は腰の後ろで手を組んで、ぼくの顔とノートを交互に見くらべている。何気なくページを開こうとすると、アキはあわてて押しとどめた。
  看来不行。她双手背在身后,交替看我的脸和笔记本。无意间正要翻笔记本,亚纪慌忙按住。

 「家に帰ってから読んで。それが交換日記のルールなんだから」
  “回家再看。这是交换日记的规则。”

 最初のページは自己紹介だった。生年月日、星座、血液型、趣味、好きな食べ物、好きな色、自分の性格にかんする分析。隣のページには、本人らしい女の子が色鉛筆で描いてあり、スリー・サイズのところに「秘密」「秘密」「秘密」と書き込まれている。ぼくはノートを開いたまま、「たまらんな」と呟いた。
  最初一页是自我介绍:出生年月日、星座、血型、爱好、喜欢的食物、中意的颜色、性格分析。旁边一页用彩色铅笔画一个大约是她本人的女孩儿。三围尺寸那里写道“秘密”、“秘密”、“秘密”。我盯视打开的日记,嘀咕道“伤脑筋啊!”

 中学三年生のクリスマスに、アキのクラス担任だった女の先生が亡くなった。一学期の修学旅行には元気に参加していたのに、二学期のはじめからずっと学校を休むようになった。具合が悪いという話は、アキからときどき聞かされていた。癌だったらしい。まだ五十歳になるかならないかの年齢だった。終業式の翌日が葬式で、アキのクラスの生徒全員と、三年生の男女の学級委員が参列した。生徒は本堂には入りきらないので、境内に立ったままで告別式に臨んだ。底冷えのする寒い日だった。お坊さんたちの読経は永遠につづくのではないかと思われた。ぼくたちは押しくらまんじゅうをしながら、厳寒の境内で凍死するまいと努めた。
  初三圣诞节时,亚纪的班主任老师去世了。第一学期精精神神参加修学旅行来着,可第二学期开学后一直没来学校。身体不好这点倒是不时听亚纪提起,似乎是癌。年龄刚到五十或没到五十。期末休业式第二天举行葬礼,亚纪全班和三年级男女学级委员参加了。学生人多无法进入大殿,站在院子里参加告别仪式。那是个阴冷阴冷的日子,和尚们的念经仿佛永远持续下去。我们紧紧挤在一起,设法不冻死在这寒冷的寺院内。

 ようやく葬儀が終わって告別式がはじまり、校長をはじめ何人かが弔辞を述べた。そのうちの一人がアキだった。ぼくたちは押しくらまんじゅうをやめて耳を傾けた。彼女は落ちついた声で弔辞を読み進んだ。途中で涙声になることもない。もちろんぼくたちが聞いたのは、彼女の肉声ではなく、スピーカーを通して境内に流れる、きわめてSN比の悪い音声だった。しかしそれがアキの声であることはすぐにわかった。ただ憂いを帯びているぶん、普段よりも大人びて聞こえた。いつまでも幼稚なぼくたちを置いて、彼女一人が先へ行ってしまうような、ちょっと寂しい気持ちになった。
  葬礼终于结束,进入告别仪式。校长等几个人念悼词。其中一人是亚纪。我们不再往一起挤,侧耳倾听。她以沉着的语声往下念着。中间没有泣不成声。当然,我们听到的不是她的自然嗓音,而是通过扩音器在院内播放的SN比②极差的声音。但马上即可听出那是亚纪的声音。由于带有悲伤,听起来格外成熟。我多少有一点怅惘——她扔下永远幼稚的我们,一个人跑去前面了。

 焦りにの似た思いにかられ、居並ぶ会葬者の頭の向こうにアキの姿を捜した。前後左右に場所を移動して、ようやく本堂の入口に設けられたスタンド・マイクの前で、少しうつむき加減に弔辞を読むアキの姿を視界にとらえた。その瞬間、目の覚めるような思いにとらわれた。見慣れたセーラー服に身を包んでいる彼女が、ここからだとまるで別人のように見えた。いや、それはたしかにアキなのだけれど、何かが決定的に違っていた。読み上げられる弔辞の内容は、ほとんど耳に入らなかった。ぼくは遠くに見える彼女の姿から目が離せなくなった。
  在这种类似焦躁的情绪的驱使下,我在一排葬礼参加者的脑袋的对面搜寻亚纪。目光在会场前后左右移动,终于在设于大殿入口的立式麦克风前捕捉到了略微低头念悼词的亚纪。那一瞬间我仿佛恍然大悟:身穿早已熟悉的校服的她,从这里望去叛若两人。不,那确确实实是亚纪,却又存在决定性差异。她念的内容几乎没有入耳,我只是目不转睛盯视她那看上去离得很远的身影。

 「さすがは広瀬だな」近くに立っている誰かが言った。
  “到底是广濑啊!”旁边站的一个人说。

 「あいつ顔に似合わず、度胸がすわってるからな」別の誰かが同調した。
  “那家伙真够胆量,表面倒看不出。”另一个人附和。

 そのとき空を覆っていた厚い雲が裂けて、境内に明るい光が射した。光は弔辞を読みつづけているアキにも当たり、彼女の立ち姿を、暗い本堂の陰からくっきり浮かび上がらせた。ああ、これが自分の知っているアキだったのだ。他愛のない日記を交換しているアキ、ぼくのことを幼なじみのように「朔ちゃん」と呼ぶアキ。いつも身近すぎて、そのためにかえって透明な存在だった彼女が、いま大人になりかけた一人の女として立っていた。まるで机の上に放り出しておいた鉱物の結晶が、眺める角度によって、突然美しい光彩を発しはじめたかのようだった。
  这时,满天乌云裂开一道缝,灿烂的阳光射进寺院。阳光也照在继续念悼词的亚纪身上,使得她的身影从昏暗的大殿阴影中清晰浮现出来。啊,那就是自己认识的亚纪、同自己交换充满孩子气的日记的亚纪、像招呼儿时朋友那样把自己叫“阿朔”的亚纪。由于平时近在身旁反而变成透明存在的她,此时正作为开始成熟的一个女人站在那里。一如扔在桌面的矿石晶体因了注视角度而突然大放异彩。

 不意に駆けだしたい衝動にとらわれた。身体のなかに溢れる歓びとともに、ぼくははじめて、彼女に思いを寄せる男子生徒の一人として、自分を意識した。級友たちの垣間見せた嫉妬を、わが身に引きつけて理解することができた。そればかりか、いまやぼくは自分自身にさえ嫉妬していた。なんの苦もなくアキとともにいる幸運\に恵まれてきた自分に、無造作に彼女と親密な時間を過ごしてきた自分に、胸の奥が酸っぱくなるような妬ましさをおぼえていた。
  突然,一股想扑上前去的冲动朝我袭来。伴随着体内鼓涌的欢欣,我第一次意识到自己是对她怀有爱恋之情的男生之一。我得以切切实实理解了同学们时隐时现的嫉妒。不止如此,此刻我甚至嫉妒自己本身,嫉妒轻而易举地获得同亚纪在一起的幸运的自己,嫉妒随随便便同她度过亲密时光的自己,嫉妒得胸口深处有些发酸。

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① Oliver Cromwell(1599~1658),英国政治家。统率铁骑军参加清教徒革命,屡立战功。1649年处死国王查理一世,1653年开始自任护国王。
② signal-to-noise ratio,电输入输出信号同杂音之比。

第一章



 中学校を卒業したぼくたちは、高校で再び一緒にのクラスになった。そのころには、アキにたいする恋愛感情は偽りようのないものになっていた。彼女に恋をしていることは、ぼくがぼくであることと同じくらい自明な事柄だった。もし誰かに、「おまえ、広瀬が好きなんだろう」と言われたら、「何をいまさら」と白々しい気分になったに違いない。ホームルーム以外の授業の席は自由だったので、いつも机をくっつけて隣に坐った。さすがに高校になると、仲のいいカップルの親密な交際を冷やかしたり妬んだりするクラスメートもいない。ぼくたちの存在は教室の黒\板や花瓶と同じように、日常的な風景のなかに埋没しつつあった。むしろ教師たちの方が、「いつも仲がいいね」などと幼稚な干渉をしたがった。ぼくは「おかげさまで」と愛想よく答えながら、胸のなかで「大きなお世話だ」と不貞腐れた。
  从初中毕业的我们在高中重新分在一个班。那时我对亚纪的爱恋之情已经不容怀疑了。对她的爱恋,是和我就是我这点同样不言而喻的事。倘若有谁问我“你是喜欢广濑吧”,我肯定装疯卖傻:瞧你说的什么呀,现在!自习时间以外的课座位是自由的,所以总是桌挨桌坐在一起。毕竟是高中,对要好男女的亲密交往再没有同学奚落或嫉妒了。我们的存在一如教室的黑板和花瓶,正同日常景致融为一体。反倒是教师方面进行幼稚的干涉:“够亲热的哟!”我嘴上客客气气应一句“托您的福”,而心里赌气道“乱管闲事!”

 四月からはじまった「竹取物語」の講読は佳境に入っていた。月の使者から姫を守るために、帝は翁の屋敷のまわりを兵でかためる。しかし姫は連れ去られてしまう。あとに残されたのは、帝への手紙と不死の薬。姫のいない世界でいつまでも生きていたいとは思わない。そこで彼は薬を、月にもっとも近い山の頂で焼くように命ずる。富士の名の由来を語るくだりで、物語は静かに幕を閉じる。
  四月开始的《竹取物语》①讲读已入佳境。为保护香具娘不被月亮的使者领走,帝派兵把竹取翁的房子团团围住。可是香具娘仍被领走,剩下来唯有帝和长生不老药。但帝不想在没有香具娘的世界上长生不老,于是命令在距月亮最近的山顶把药烧掉。故事在讲述富士山由来那里,静静落下帷幕。

 作品の背景を説明する教師の話に耳を傾けながら、アキはテキストに目を落としたまま、いま読み終えたばかりの物語を胸のなかで半芻しているようだった。前髪が垂れて、形のいい鼻梁を覆っている。ぼくは半ば髪に隠れた彼女の耳を見た。また小さくめくれた唇を見た。どれもこれもが、けっして人間の手では引くことのできない微妙な線によって形づくられており、じっと眺めていると、それらがすべてアキという一人の少女に収斂していくことが、つくづく不思議を出来事に思えてくる。その美しい人が、ぼくのことを思ってくれている。
  亚纪一边倾听老师讲解作品背景,一边把眼睛盯在课本上不动,似乎在心里回味刚刚读完的这个故事。前面头发垂下来,挡住形状娇好的鼻梁。我看她藏在秀发里的耳朵,又看那微微翘起的嘴唇,哪一个都以人手绝对画不出的微妙线条勾勒成形。静静注视之间,不由为那一切都收敛于亚纪这一少女身上深觉不可思议。而那么美丽的少女居然把情思放在我身上。

 突然、恐ろしい確信にとらわれた。どんなに長く生きても、いま以上の幸福は望めない。ぼくにできるのは、ただこの幸福を、いつまでも大切に保ちつづけていくことだけだ。自分が手にしている幸福が、空恐ろしいものに感じられた。もう一人一人に与えられた幸せの量が決まっているのだとすれば、この瞬間に、一生分の幸福を蕩尽しようとしているのかもしれなかった。いつか彼女は月の使者によって連れられてしまう。あとには不死のように長い時間だけが残される。
  突然,一个可怕的固执念头俘获了我——即使长命百岁,也不可能再有比这更幸福的幸福。我所能做的,只有永远珍惜和保有这幸福而已。我觉得自己到手的幸福十分虚无缥缈。倘若赋予每个人的幸福的量早已定下,那么我很有可能在这一瞬间把一生的幸福挥霍一空。她迟早将被月亮的使者领走,剩下来唯独长生不老般漫长的时间。

 気がつくとアキがぼくの方を見ていた。よほど深刻そうな顔をしていたのだろうか。彼女は微笑みかけた表情をにわかに曇らせた。
  回过神时,发现亚纪正往我这边看。想必我的表情相当严肃。她刚刚漾开的微笑当即黯淡下来。

 「どうしたの?」
  “怎么了?”

 ぼくはぎこちなく首を横に振った。
  我笨拙地摇一下头。

 「なんでもない」
  “没什么。”

 授業が終わると、毎日一緒に帰宅した。学校から家までの道をできるだけゆっくり歩いた。ときには遠まわりをして時間を稼いだ。そんなふうにして帰っても、いつもあっと言う間に分かれ道まで来てしまう。不思議なことだ。同じ道を一人で歩くと、長く退屈に感じられるのに、二人でお喋りをしながらだと、いつまでも歩いていたいと思う。教科書や参考書を詰め込んだ鞄の重さも苦にならない。
  下了课,每天一起回家。从学校到家的路尽可能慢走。有时绕远路来延长时间。即使这样,也还是转眼之间就来到岔路口。莫名其妙。同一条路一个人走觉得又长又单调;而两个人边聊边走,就很想一直走下去。塞满课本和参考书的书包的重量也不觉难受。

 われわれの人生だってそうかもしれない、と何年もあとになってから思うことがあった。一人で生きる人生は、ただ長く、退屈なものに感じられる。ところが好きな人と一緒だと、あっと言う間に分かれ道まで来てしまうのである。
  我们的人生或许也是同样,好几年后我这样想道。一个人活着的人生,感觉上漫长而又枯燥;而若同喜欢的人在一起,一忽儿就来到岔路口。

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① 日本第一部以假名(日文字母)写的物语(章回小说)。砍竹翁从竹中得一女,名香具娘,长成后有五名贵公子和帝王求婚,最后升天奔向月亮。


第一章



 祖母が亡くなったあと、祖父はしばらくぼくの家で暮らしていたが、前にも書いたように、年寄りには住みにくい家だとか言って、一人でマンション暮らしをはじめた。もともと農家の出身で、祖父の父の代までは、かなり大きな地主だったらしい。しかし農地改革によって旧家は没落し、跡取りだった祖父は東京に出て実業界に身を投じた。敗戦後の混乱に乗\じて金を作り、田舎に帰ると、三十歳そこそこで食品加工の会社を起こした。祖母と結婚して父が生まれた。母から聞いた話では、祖父の会社は高度経済成長の波に乗\って順調に成長し、祖父たち一家は傍目にも裕福な暮らしをしていたという。ところが父が高校を卒業すると、せっかく大きくした会社をあっさり部下に譲り、自分は選挙に出て議員になった。以後十年余り議員時代がつづき、祖父の資産はあらかた選挙資金に消えた。祖母が亡くなったころには、家の他には財産らしい財産も残っていなかったという。ほどなく政界からも引退し、いまは一人で悠々自適の生活をしている。
  祖母去世后,祖父在我家住了一段时间。前面也写了,他说房子不适于老年人居住,开始一个人在公寓里生活。本来就是农民出身,到祖父的父亲那代似乎成了相当大的地主。但由于农地改革,世家没落了,作为后嗣的祖父来东京投身于实业界。趁战败混乱之机赚了笔钱,回乡下后三十刚出头就创办了食品加工公司。和祖母结婚后生下父亲。据母亲讲,祖父的公司乘经济起飞的强风顺利发展壮大,祖父一家过上即使在旁人眼里也显而易见的富裕生活。不料,父亲高中毕业后,祖父把好不容易做大的公司爽快地让给部下,自己参加竞选当了议员。往下一连当了十多年议员,资产也大部分用作竞选资金消失了。祖母去世的时候除了房子已没有像样的财产了。不久从政界也退下来,如今一个人悠然自得地打发时光。

 ぼくは中学生のころから、ときどき慈善事業のつもりで祖父のマンションに出かけていって、学校生活の話をして聞かせたり、テレビで相撲を観ながら一緒にビールを飲んだりしていた。ときには祖父の方も、若いころの話を聞かせてくれることがあった。十七か八のころ、祖父には好きな人がいたのだけれど、事情があって一緒になることができなかったという話も、そんな折に出たものだった。
  从上初中开始,我就不时以做慈善事业的念头跑去祖父公寓那里,给他讲学校的事,或者边看电视上的相扑边喝啤酒。有时候祖父也讲他年轻时的事。祖父十七八岁时有个心上人却因故未能走在一起的故事也是那时候讲起的。

 「その人は胸を病んでいてな」祖父はいつものようにボルドーの赤をちびりちびり飲みながら言った。「いまなら結核なんて、薬ですぐに治ってしまうが、当時は栄養のあるものを食べて、空気のいいところでじっと寝ているしかなかった。そのころの女というのは、よほど丈夫じゃないと、結婚生活には耐えられないとされたもんだ。電化製品なんてもののない時代だからね。炊事も洗濯も、いまでは考えられないくらい大変な重労働だった。おまけにわしは当時の若者たちの例にもれず、自分の命をお国のために捧げるつもりだった。お互いに好き合っていても、とても結婚はできない。それは二人ともわかっていた。困難な時代だったのだよ」
  “她有肺病。”祖父一如往常一小口一小口啜着波尔多干红说道,“如今结核什么的吃药马上就好,但当时只能吃有营养的东西。在空气新鲜的地方静静躺着。那时候的女人,不相当壮实是无法忍受婚姻生活的。毕竟是家用电器一概没有的时代。做饭也好洗衣服也好,都是现在无法想像的重活。何况我和当时的年轻人一样,一心要把自己的生命献给国家。即使再互相喜欢,也绝不能结婚的。这点两人都清楚。艰苦岁月啊!”

 「それでどうなったの」ぼくは缶コーヒーを飲みながらたずねた。
  “往后怎么样了?”我喝着易拉罐啤酒问。

 「わしは軍隊にとられて、何年間も兵営生活を余儀なくされた」祖父はつづけた。「二度と生きて会えるとは思わなかったよ。兵隊に行っているあいだに、その人は死んでしまうだろうと思っていたし、自分が生きて帰れるとも思わなかった。だから別れる間際に、せめてあの世で一緒になろうと誓い合ったんだ」祖父は言葉を置いて、遠くを見るように眼差しを彷徨わせた。「ところが運\命というのは皮肉なもので、戦争が終わってみると、二人とも生き延びていた。未来がないと思えるときには、妙に潔くなれるものだが、命ある身と思えば、また欲が出てくる。わしはどうしても、その人と一緒になりたかった。だから金を作ろうと思った。金さえあれば、結核であろうがなんだろうが、その人を引き取って養うことができるからな」
  “我被抓去当兵,被迫过了好几年兵营生活。”祖父继续下文,“没以为会活着见第二次。以为当兵期间她会死掉,自己也不会活着回来。所以分别时互相发誓至少来世朝夕相守。”祖父停顿下来,眼神仿佛眺望远方摇曵不定。“可是命运这东西真是啼笑皆非。战争结束回去一看,两人都活了下来。以为没有将来的时候居然清心寡欲,而一想到来日方长,欲望就又上来了。我横竖要和她在一起。所以想赚钱。因为只要有了钱,结核也好什么也好,都能娶了她把她养活下来 。”

 「それで東京に出たんだね」
  “所以来到东京?”

 祖父は頷いて、「東京はまだほとんどが焦土だったよ」と話をつづけた。「食糧事情は最悪で、インフレも凄まじかった。無法状態に近いなか、みんな栄養失調と紙一重のところで、殺気だった目をして生きていた。わしもなんとか金を作ろうと必死だった。恥知らずなこともたくさんした。人を殺したことはないが、それ以外ならほとんどのことはやった。ところが、わしがそうやってあくせく働いているあいだに、結核の特効薬が開発されてしまったんだ。ストレプトマイシンと素那玩意儿。”
  祖父点头。“东京还差不多一片焦土。”祖父继续道,“粮食最紧张不过,通货膨胀也够要命。在近乎无法状态的情况下,人们全都营养失调,离死只差半步,眼睛放着凶光。我也拼死拼活设法赚钱。寡廉鲜耻的勾当也没少干。杀人固然没有,但此外差不多什么事都干了。不料,在我这么起早贪黑干活时间里,结核特效药开发出来了——链霉素那玩意儿。”

 「名前は聞いたことがある」
  “名称听说过。”

 「それで彼女の病気は治ってしまった」
  “结果,她的病治好了。”

 「治ったの?」
  “治好了?”

 「まあ、病気が治ったことはいい。しかし病気が治るということは、嫁に行けるということだ。当然、親は娘を薹が立つ前に嫁にやろうとする」
  “好了,治好了是好。可是病治好了,就意味可以出嫁了。理所当然,父母要趁女儿还年轻时嫁出去。”

 「おじいちゃんは?」
  “你呢?”

 「眼鏡にかなわなかった」
  “人家没看上。”

 「どうして」
  “为什么?”

 「やくざな商売に手を染めていたしな。刑務所に入ったこともあるんだ。向こうの親は、そのあたりのことも知っているようだった」
  “做乱七八糟的买卖嘛,再说又蹲过班房。她父母对此好像早已了解。”

 「でも、その人と一緒になるためだろう」
  “可你不是为了和那个人在一起才那样的么?”

 「こっちの理屈ではそうだが、向こうはそうは思わない。やっぱり娘には堅気の男をと考えるわけだ。たしか小学校の教師か何かをやっている男だった」
  “那是我这方面的道理,可对方不那样认为,还是想把女儿嫁给本份人。大概是当小学老师或干什么的。”

 「ふざけた話だ」
  “一塌糊涂!”

 「そういう時代だったんだよ」祖父は小さく笑いながら、「いまの感覚からすると馬鹿げたことに思えるだろうが、子供はなかなか親に逆らえない時代だった。まして若いころからずっと病気がちで、親の厄介になってきた旧家の娘となれば、親のあてがう相手を拒んで、別の男と一緒になりたいなんてことは、とても言えなかっただろう」
  就是那样的时代嘛!”祖父低声笑道,“以现在的感觉说来是好像荒唐,但那时孩子无论如何也不敢违抗父母的。更何况年纪轻轻一直闹病、成为父母负担的大户人家女儿更不敢拒绝父母选中的对象,而说出想和别的男人在一起那样的话来。”

 「それでどうしたの」
  “后来怎么样了?”

 「彼女は嫁に行ったよ。わしはおばあさんと結婚して、おまえの父親が生まれた。それにしてもあいつは堅物だな」
  “她出嫁了。我和你奶奶结婚,生了你父亲。不过那家伙也真够有主意的了。”

 「そんなことより、諦めたの?その人のことは」
  “问题更在于你,死心塌地了?对她?”

 「諦めたつもりだった。向こうもそうだったと思う。この世では一緒にならない縁というものがあるんだ」
  “自以为死心塌地来着。以为对方也会那样。毕竟世上有缘无份的事情是有的。”

 「でも、諦められなかったんでしょう?」
  可你没有死心塌地吧?”

 祖父は目を細めて、ぼくの顔を値踏みするように見ていた。やがて口を開くと、「そのつづきは、いずれまた話すことにしよう」と言った。
  祖父眯细眼睛,以估价的眼神看我的脸。良久开口道:“下文另找时间说吧。”

 「朔がもうちょっと大きくなってからな」
  “等你再长大一点之后。”

 祖父がつづきを話す気になったのは、ぼくが高校生になってからだった。一年生の夏休みが終わり、二学期に入ったばかりのころ、ぼくは学校の帰りに祖父のマンションへ寄り、いつものようにテレビで大相撲中継を観ながらビールを飲んでいた。
  祖父愿意继续下文,已是我上高中后的事了。高一暑假结束刚进入第二学期的时候,我放学回来顺路去祖父的寓所,像以往那样边看电视上的大相扑直播边喝啤酒。

 「飯でも喰っていかんか」相撲が終わると祖父は言った。
  “不吃了饭再回去?”相扑比赛一完,祖父问道。

 「いいよ、おふくろが支度して待ってるから」
  “不了,母亲做好等着呢。”

 祖父の接待を断るのには訳がある。夕食の献立というのが、ほとんど缶詰なのである。コンビーフとか牛肉の大和煮とか鰯の蒲焼とか。野菜にしたって缶詰のアスパラガスである。これにインスタントのみそ汁が付く。祖父は毎日こういうものを食べている。たまに母が食事を作りにいったり、うちに食べにきたりもするが、基本的に祖父の食生活は缶詰である。本人に言わせれば、年寄りは栄養だなんだと考えず、きまったものをきまった時間に食べることが大切なのだそうだ。
  拒绝祖父的招待是有缘故的。他的晚饭食谱几乎全是罐头。什么咸牛肉啦什么牛肉“大和煮①”啦什么烤沙丁鱼串啦……青菜也无非是罐头龙须菜罢了,大酱汤也是速食的。祖父天天吃这种东西。偶尔母亲来做一顿或去我家吃,但基本上靠吃罐头活着。依本人说法,老年人不考虑什么营养,关键是一定的时间吃一定的东西。

 「今日は鰻でも取ろうと思っているんだが」帰ろうとしていると祖父は言った。
  “今天倒是想要个鳗鱼什么的。”正要回去时祖父说道。

 「どうして?」
  “为什么?”

 「どうしてって、鰻を喰っていかんという法はないだろう」
  “什么为什么?没有不能吃鳗鱼的道理嘛!”

 祖父が電話をかけて、二人前の鰻重が届くまでのあいだ、ぼくたちはビールをもう一本飲みながらテレビを観ていた。祖父はいつものようにワインの栓を抜いた。こうして三十分か一時間くらいおいて、夕食のあとで飲みはじめるのだ。ボルドーの赤を二日で一本という習慣も、ぼくの家で一緒に暮らしていたころから変わらない。
  祖父打个电话。等待两人份的鳗鱼送来时间里,我们喝着啤酒——又喝了一瓶——看电视。祖父像往常那样开了一瓶葡萄酒,放在那里三十分钟或一个小时,晚饭后再喝。两天喝一瓶波尔多干红的习惯也和在我家生活时一样。

 「今日は朔にたのみがあってな」祖父はビールを飲みながらあらたまって言った。
  “今天有事相求啊。”祖父一边喝啤酒一边一本正经地说。

 「たのみって?」鰻重に釣られて居すわってしまったぼくは、なんとなく嫌な予感がしはじめていた。
  “有事相求?”在鳗鱼诱惑下留下来的我开始无端怀有一种不快的预感。

 「うん、まあ話せば長くなるが」
  “唔,说起来话长。”

 祖父は台所からオイルサーディンを持ってきた。もちろん缶詰である。オイルサーディンをつまみにビールを飲んでいる途中で出前が届いた。鰻重を食べ、肝すいを飲み終えても、祖父の話は終わらなかった。ぼくたちはワインを飲みはじめた。この調子だと、二十歳になるころには立派なアルコール依存症者だ。ぼくの身体のなかにはアルコール分解酵素がたくさんあるのか、少々飲んだくらいでは酔わなかった。とても奈良漬けを一口食べて気分が悪くなる男の子供は思えない。
  祖父从厨房里拿来橄榄油沙丁鱼。当然又是罐头。正抓着橄榄油沙丁鱼喝啤酒,鳗鱼送来了。吃罢鳗鱼、喝罢鳗鱼肝汤,祖父的话仍没说完。我们开始喝葡萄酒。长此以往,到二十岁肯定沦为不可救药的酒精依赖者。我的身体里大概有很多酒精分解酵素,喝一点点不会醉。无论如何看不出是吃一口奈良咸菜心里就不舒服的男孩。

 ようやく祖父の長い話が終わったのは、ボトル一本分のワインがあらかた空になったころだった。
  祖父的长话终于说完时,一整瓶波尔多干红差不多空了。

 「朔も酒が強くなったな」祖父は満足そうに言った。
  你酒量也好像大了。”祖父满意地说。

 「おじいちゃんの孫だからね」
  “爷爷的孙子嘛!”

 「おまえの父親はわしの息子のくせに一滴も飲まんぞ」
  “可你父亲是我的儿子,却滴酒不沾。”

 「隔世遺伝てやつだろう」
  “怕是隔代遗传吧。”

 「なるほどな」祖父はわざとらしく頷いた。「ところでどうだ、さっきの話、引き受けてくれるか?」
  “果然。”祖父造作地点点头,“对了,刚才的事你可答应了?”

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① 用酱油、砂糖、料酒、生姜加调味液煮的牛肉。

第一章



 翌日は二日酔いで頭が痛く、とても三角関数や間接話法どころではなかった。午前中は教科書の陰で吐き気を堪えて過ごし、四時間目の体育を乗\り切ると、ようやく人心地がついた。弁当は中庭でアキと一緒に食べた。噴水の水しぶきを見ていると、また気分が悪くなりそうなので、ベンチを動かして池に背を向けて坐るようにした。ぼくは彼女に、昨夜祖父から聞いたばかりの話をした。
  第二天醉意未消,头痛,三角函数和间接引语之类根本无从谈起。整个上午好歹用课本挡住脸强忍没吐。熬过第四节体育课,总算恢复常态。盒饭是在院子里和亚纪一起吃的。看喷泉水花时间里,心情又像要变得难受,于是移动凳子,背对水池坐着。我对亚纪讲了昨晚刚从祖父口中听来的故事。

 「じゃあ朔ちゃんのおじいさんは、ずっとその人のことを思いつづけていたのね」アキは心なしか目を潤ませて言った。
  “那,你爷爷一直想着那个人?”亚纪眼睛好像有点湿润。

 「まあそうなんだろうね」ぼくはやや複雑な心境で頷いた。「諦めようとはしたんだけど、忘れられなかったらしい」
  “是那样的吧。”我以不无复杂的心境点了下头,“倒是想忘,却忘不掉,好像。”

 「そして相手の人も、朔ちゃんのおじいさんのことが忘れられなかった」
  “那个人也没能忘记你的爷爷。”

 「異常だろう?」
  “异常吧?”

 「どうして?」
  “为什么?”

 「どうしてって、半世紀だぜ。種の進化だって起こりかねない」
  “为什么?都半个世纪了!物种的进化都可能发生。”

 「そんなに長いあいだ、お互いに一人の人のことを思いつづけていられるなんて素敵じゃない」アキはほとんど心ここにあらずといった風情だ。
  “那么长时间里心里始终互相装着一个人,不是太难得了?”亚纪几乎一副心已不在这里的神情。

 「すべての生物は年をとるんだよ。生殖細胞以外の細胞は老化を免れない。アキちゃんの顔にもだんだん皺が増えていく」
  “所有生物都要老的,生殖细胞以外的任何细胞都不能免于老化。你亚纪脸上也要慢慢爬上皱纹。”

 「何が言いたいの?」
  “想说什么呢?”

 「知り合ったときは二十歳ぐらいでも、五十年も経てば七十になっちゃう」
  “相识的时候哪怕才二十岁,五十年过去也七十了。”

 「だから?」
  “所以说?”

 「だからって……七十のお婆さんのことを一途に思いつづけるなんて、不気味じゃないか」
  “所以说……一门心思地思念七十岁的老太婆,不是够让人怵然的?”

 「わたしは素敵なことだと思うけど」アキは突き放すように言った。なんだかちょっと怒っているみたいだ。
  “我倒认为难得可贵。”亚纪冷冷地说,像是有点生气了。

 「それで、ときどきホテルなんかにも行くわけ?」
  “那么,时不时要去一次旅馆喽?”

 「よしなさいよ」アキは険しい目でぼくを睨んだ。
  “别说了!”亚纪以严厉的眼神瞪视我。

 「おじいちゃんて、そういうことやりかねないんだ」
  “那种事我爷爷可是干得出来的哟。”

 「朔ちゃんでしょう、そういうことやりかねないのは」
  “你莫不是也干得出来?”

 「いや、違うって」
  “不,那不一样。”

 「違わない」
  “一样!”

 議論はとうとう物別れに終わり、つづきは午後の理科の授業に持ち越されることになった。生物の教師が、人間のDNAの九八・四パーセントはチンパンジーと同じであるという話をしていた。両者の遺伝子の違いは、チンパンジーとゴリラの遺伝子の違いよりも小さい。だからチンパンジーにいちばん近いのは、ゴリラではなく、われわれ人間である。そんな話に、クラス中が笑った。何がおかしいんだ、馬鹿野郎。
  争辩不欢而散。下午理科课堂上仍没休战。生物老师说人的DNA有百分之九八点四同黑猩猩相同。二者遗传因子的差异比黑猩猩和大猩猩的还小。所以,最接近黑猩猩的,不是大猩猩,而是我们人类。全班听得笑了。有什么好笑的?一群混账!

 ぼくとアキは教室の後ろの方に坐って、あいかわらず祖父たちのことについて話つづけていた。
  我和亚纪坐在教室后面,仍就祖父的事说个不停。

 「こういうのって、やっぱり不倫になるのかな」ぼくは重大な疑問を提起した。
  “这样子,还应该算是婚外情吧?”我提出一个重大疑问。

 「純愛にきまってるじゃない」アキは即座に反論した。
  “纯爱嘛,还用说!”亚纪当即反驳。

 「でもおじいちゃんにも相手の人にも、妻や夫がいたんだぜ」
  “可爷爷也好对方也好都是有妻子或丈夫的哟!”

 彼女はしばらく考え込んで、「奥さんや旦那さんから見ると不倫だけど、二人にとっては純愛なのよ」
  她思索片刻。“从太太或先生看来是婚外情,但对两人来说是纯爱。”

 「そういうふうに立場によって、不倫になったり純愛になったりするのかい」
  “因为立场不同,有时是婚外情有时是纯爱?”

 「基準が違うんだと思うわ」
  “我认为是标准不同。”

 「どんなふうに?」
  “怎么不同?”

 「不倫というのは、要するにその社会でしか通用しない概念でしょう。時代によっても違うし、一夫多妻制の社会とかだと、また違ってくるわけだから。でも五十年も一人の人を思いつづけるってことは、文化や歴史を超えたことだと思うわ」
  “婚外情这东西,说到底是只适用于社会的概念,因时代不同而不同。若是一夫多妻制社会,又另当别论。不过五十年都始终思念一个人,我想是超越文化和历史的。”

 「種も超える?」
  “物种也超越?”

 「えっ?」
  “哦?”

 「チンパンジーも一匹のメスのことを、五十年思いつづけたりするのかな」
  “黑猩猩也会思念一只母的长达五十年?”

 「さあ、チンパンジーのことはわからないけど」
  “这——,黑猩猩我不知道。”

 「つまり不倫よりも純愛の方が偉いわけだ」
  “就是说,纯爱比婚外情伟大。”

 「偉いっていうのとは、ちょっと違うかな」
  “这和伟大不太一样。”

 話が佳境に入ってきたとこれで、「そこの二人、さっきから何を話しているんだ」という教師の声が飛んできた。罰として、教室の後ろに立たされることになった。権力だ、とぼくは思った。人間とチンパンジーの交配は可能かもしれないという話は許され、歳月を超えた男女の恋愛の話は許されないなんて。ぼくたちは立たされたまま、小声で祖父たちの話をつづけた。
  交谈正入佳境,老师的声音扑来:“你们两个,一直交头接耳!”结果,被罚站在教室后面。霸道!允许讲人与黑猩猩有可能交配,却不允许讲超越岁月的男女恋爱!被罚站的我们继续小声讲我的祖父。

 「あの世を信じる?」
  “相信来世?”

 「どうして?」
  “何苦问这个?”

 「おじいちゃんは好きな人と、あの世で一緒になろうって誓い合ったわけだからさ」
  “因为爷爷发誓来世和心上人朝夕相守。”

 アキはしばらく考えて、「わたしは信じないな」と言った。
  亚纪想了一会说:“我不相信。”

 「毎日寝る前に、お祈りしてるんだろう?」
  “每天睡觉前祈祷的吧?”

 「神様は信じるの」彼女はきっぱりと答えた。
  “神我相信。”她斩钉截铁地回答。

 「神様とあの世と、どう違うわけ?」
  “神和来世有什么区别?”

 「あの世って、この世の都合で作り出されたもののような気がしない?」
  “你不觉得来世像是根据今世造出来的?”

 ぼくはそれについてちょっと考えた。
  我就此稍加思索。

 「するとおじいちゃんたちは、あの世でも一緒になれないね」
  “那么爷爷和那个人来世也不能在一起了?”

 「あくまでわたしが信じる信じないの話よ」アキは弁解するように言った。「おじいさんとその人には、また別の考え方があったんでしょうから」
  “我只是说我相信不相信。”亚纪辩解似的说,“你爷爷和那个人也许另有想法。”

 「神様だって、この世の都合で作り出された可能性はあるよ。神頼みなんて言葉もあるくらいだから」
  “神是有可能根据今世情况制造出来的。不是有急时抱佛脚这句话嘛。”

 「それはきっとわたしの神様とは違うんだわ」
  “那肯定和我的神不同。”

 「神様は何人もいるのかい?それとも何種類?」
  “神有好几个?还是说有好几种?”

 「天国を畏れることはないけど、神様を畏れることってあるでしょう。そういう気持ちを抱かせる神様にたいして、わたしは毎晩お祈りしているの」
  “天国可以不敬畏,但神是要敬畏的。对于让我怀有如此心情的神,我天天晚上祈祷。”

 「どうか天罰を下さないでくださいって?」
  “祈祷别降天罚于自己?”

 ぼくたちはついに廊下に出された。廊下でも、懲りずに天国や神様の話などをしているうちに授業が終わり、二人とも職員室に呼ばれて、生物の教師とクラス担任から、それぞれ油を榨られた。仲のいいのは結構だが、授業中はもっと身を入れて先生の話を聞くように。
  我们终于被带到走廊里。在走廊也不屈不挠地讲天国讲神。讲着讲着下课了。两人都被叫去教员室,被生物老师和班主任分别刮了一顿:两人要好自然不坏,但课堂上要专心听课才是。

 正門を出たときには夕方近くになっていた。ぼくたちは黙って大名庭園の方へ歩いていった。途中にグラウンドと歴史博物館がある。城下町という名前の喫茶店もある。一度、学校の帰りに入ったことがあるが、コーヒーが不味いので二度と行かない。古い造り酒屋の前を過ぎて、街中を流れる小さな川のほとりまで来た。橋を渡ったところで、ようやくアキが口を開いた。
  走出学校正门时已近黄昏。我们默默朝大名庭园那边走去。路上有运动场和博物馆,还有一家叫城下町的饮食店。放学回来进过一次,但咖啡不好喝,再没进过。走过式样古老的酒铺,来到流经城区的小河旁。过了桥,亚纪终于开口了。

 「でも結局、二人は一緒になることができなかったのね」彼女は話のつづきに戻るような口調で言った。「五十年も待ったのに」
  “归根结底,两人未能在一起吧,”她以返回前面话题的语气说,“尽管等了五十年。”

 「相手の人の旦那が死んだら一緒になるつもりだったらしいよ」ぼくもやはり祖父たちのことを考えていた。「おばあちゃんが亡くなってから、おじいちゃんの方はずっと一人だったから」
  “好像打算等对方的丈夫死后在一起来着。”我也在想祖父的事,“因为奶奶去世后,爷爷一直一个人生活。”

 「どのくらい?」
  “多长时间?”

 「もう十年になるかな。でも相手の人のところは、旦那より当人の方が先に死んでしまうんだから、うまくいかないもんだ」
  “已经十年了。但是对方那里,当事人比丈夫先死的,没能如愿。”

 「なんだか悲しい話ね」
  “够伤感的啊!”

 「滑稽な話という気もするけど」
  “也觉得有些滑稽。”

 会話が途切れた。ぼくたちはいつもよりもうつむき加減に歩きつづけた。八百屋と畳屋の前を過ぎて、床屋の角を曲がると、アキの家はもうすぐ近くだ。
  交谈中断。我们继续走路,头比往日垂得更低。走过蔬菜店和榻榻米店,再拐过理发店,很快就是亚纪的家。

 「朔ちゃん、手伝ってあげなさいよ」残りに道のりが少なくなってきたことを意識するように、彼女は言った。
  “阿朔,你就帮帮忙嘛!”她像意识到路已所剩无多似的说道。

 「気安く言うけど、人の家の墓を暴くんだぜ」
  “说起来容易,那可是掘人家的墓哟!”

 「ちょっと怖い?」
  “有点儿怕?”

 「ちょっとどころの騒ぎじゃないよ」
  “岂止有点儿。”

 「朔ちゃんて、そういうの苦手だもんね」
  “那种事你干不来啊。”

 笑っている。
  笑。

 「何がそんなに嬉しいわけ?」
  “干嘛这么高兴?”

 「いえ、別に」
 “哪里。”

 とうとう彼女の家が見えてきた。ぼくはその手前の道を右に折れて、国道を渡って自分の家に帰る。残りはあと五十メートルくらいだ。どちらからともなく歩調を緩めて、立ち話をする恰好になった。
  她家出现了。我将向右拐去前面一条路,穿过国道回自己的家。到那里还有五十米。双方都不由放慢脚步,差不多等于站住说话。

 「こういうのって、やっぱり犯罪だよな」とぼくが言うと、
  “做那种事,到底是犯罪吧?”我说。

 「そうなの?」彼女は当惑したように顔を上げた。
  “那么严重?”她困惑似的扬起脸。

 「当たり前じゃないか」
  “还不理所当然!”

 「どういう罪になるのかしら」
  “算什么罪呢?”

 「もちろん性犯罪さ」
  “当然是性犯罪。”

 「嘘ばっかり」
  “瞎说!”

 彼女が笑うと肩にかかった髪が揺れて、ブラウスの白さを際立たせた。長く伸びた二人の影が、半分より上は折れ曲がって、少し先のブロック塀に映っていた。
  一笑,她垂在肩上的秀发轻轻摇曵,衬衫更显得白了。两人拉长的身影上面一半弯曲了,映在稍前面一点的混凝土预制块围墙上。

 「とにかく見つかれば停学だな」
  “反正被发现就要受停学处理。”

 「そのときは遊びにいくから」
  “那时我去玩就是。”

 力づけるつもりだったのだろうか。
  莫非她在给我打气?

 「気楽だね、あくまできみは」ぼくはため息まじりに呟いた。
  “够乐观的,你总那么乐观。”我叹息着自言自语。
左翼才子 发表于 2010-2-26 21:07:31 | 显示全部楼层
小花,借地方贴个东西啊[s:18]
浮生若梦 发表于 2010-2-26 21:19:19 | 显示全部楼层
打酱油
巴伐州州长 发表于 2010-3-12 10:21:57 | 显示全部楼层
我是来看樱木花道10的头像滴~~~~~
 楼主| 芭拉熊 发表于 2010-3-17 22:09:00 | 显示全部楼层
引用第383楼左翼才子于2010-02-26 21:07发表的  :
小花,借地方贴个东西啊[s:18]

好啊好啊 没问题!

PS:林少华?想起了挪威的森林~~
ReinholdYabo 发表于 2010-4-4 12:18:15 | 显示全部楼层
打酱油  [s:37]
巴伐州州长 发表于 2010-4-8 14:24:24 | 显示全部楼层
路过[s:105]
黄金体验 发表于 2010-4-8 15:47:05 | 显示全部楼层
现在林少华和春上村树好像解约了




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ReinholdYabo 发表于 2010-4-13 11:10:13 | 显示全部楼层
路过 [s:105]
Mr.Banjo 发表于 2010-4-13 12:05:51 | 显示全部楼层
饭前饭后 请记得来水楼啊...... 哇嘎嘎嘎嘎....  灌灌灌灌灌灌灌...    袁隆平来了....
猪囡囡 发表于 2010-4-17 16:20:29 | 显示全部楼层
。。。。。。。。。。

i love westlife i love nicky[s:18]
巴伐州州长 发表于 2010-4-19 10:35:29 | 显示全部楼层
每日一水~~~
巴伐州州长 发表于 2010-4-19 10:35:41 | 显示全部楼层
坚决一天只一水~
巴伐州州长 发表于 2010-5-4 10:18:42 | 显示全部楼层
这个水楼一点都不水~
 楼主| 芭拉熊 发表于 2010-5-6 19:37:55 | 显示全部楼层
哪里不水了?

那就再水点~~[s:16]
巴伐州州长 发表于 2010-5-6 20:23:35 | 显示全部楼层
您终于出现了 

还是水
德迷小天王 发表于 2010-5-6 20:24:42 | 显示全部楼层
进来灌水
ReinholdYabo 发表于 2010-5-6 20:32:08 | 显示全部楼层
灌水
DeutschMickey 发表于 2010-5-6 20:38:09 | 显示全部楼层
我说呢 还有这个水楼呢 哈
今天终于浮上来了 哈哈
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